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この世界はキチガイばかりだ
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だるま姜維と夏侯覇
今日ははきょうの日ときいてSS書いたけど
久々にかくもんじゃねーよアハアハハ
ほんとにハッピーなんて歯がゆいです
グロっぽいけど程度はひくいよ~
夏侯覇が死ぬだけのお話だよ~~~~~



bad aide (ba de ai)


「まあ、俺はいいと思うぜ。そういう心意気ってのは、大層なもんだ。かっこいいぜ。でも、それが仮におかしなことだとしたらどうなんだ?どう見ても、誰が見ても善悪の区別をつけるなら悪なんだ。それが間違ってるか、そうじゃないかって問題じゃなくて、それが正しいかそうじゃないかってことなんだ。わからないって?え、あー、まあ、そうかもしれないな。正直、俺も言ってる意味があまり分かってない。正しいことと、正義と、善ってのは、必ずしも一致しないってことだ。えー、ほら、あの人なんていったっけ、そういう人がいたろう昔。エゴイズムに忠実だったけど、口では大義を掲げてた猛将がいなかったっけか。そう、あの人が間違ってるか否かって言ったら、俺は間違ってると思うな。でもそれは悪じゃないと思う。エゴイズムと肉親やら血縁ってのは一致することが多い、って鍾会が言ってた。あいつもおもしれーよなー!何考えてるんだろうなあ!今は司馬昭の補佐官やってるけど、どうなんだろうな。英才教育って、最初聞いたときは笑っちまったけど、あいつの知識はすごいよ本当に。顔いいからモテるし。でも性格が良いとは言えないなあ。インテリが仕事出来るというのは分かるけど、エリートが必ずしも万能じゃないってのはあいつが潔く具現化してるよなあ、アハハハハハ」

 姜維は武器の手入れをする夏侯覇の言葉に少しも耳を傾けず、ただ一つ司馬昭という単語に眉をひそめただけだった。気化した水が頬に張り付いて気持ちが悪い。一本だけ目元に付いた髪を指で退けると、伸びた爪が一筋の赤い線を作った。

「一つ、私にも言い分というものがあります。わたしがエゴイズムの塊のような言い方を夏侯覇殿はなさりますが、それはとんだ誤りというものです。私は殿の掲げた仁の世、蜀歴戦の諸将が夢見た天下、丞相の目指した世界を作り上げるためであって、私の意ではありません。丞相の説いたものに惹かれてこのように北伐を行っているのでありますし、漢王朝を滅ぼしたのは国賊曹魏です。彼らが滅ぶべきであり、それは同時に仁の世でもあるのです。合法的な規制や厳格な規律は確かにすばらしいものですが、彼らは人情というものを重んじません。それは私たちが人である意義を失っている姿であります。蟻を御覧なさい。きっちりと列になっていますが、そこに恩義やら敬愛やらがあると思いますか。ひとり、隊から外れた蟻はどうなっていますか。私たちが導く世はそうであってはいけないのです。烏合の衆とはよく言ったものですが、そこに存在する愛情については無償のものでありましょうあなたは何を言っているのですか一寸お考えなさい」
「俺はただ自由に生きているエゴイズム的な自分を美化したいだけだよ」
「そうですか」

 俺の愛を一寸も理解らないお前にはきっといつか悲しいお別れが来る。こんなにも俺が愛情の言葉を紡いでいるのに、お前は一寸も気付かない。利己愛に溺れるお前を俺がこんなにも諭しているのに、お前は一寸も分かっちゃくれない。それがひどくつまらないことはない、といえば嘘になる。俺の「愛している」がわからないお前は、きっとなにもわかりっこない。でもやさしい俺は、ひとつも言わずにこうして戦場に立って、言われた通りに火をつけて人殺しをする。ただ俺達の共通は大義を掲げた人殺しで人でなしで、人もどきだということだ。▲▲。
 川に足を踏み入れると鎧の隙間から水が染みこんで、肉を冷やした。泥が舞って、辺りを不明瞭に汚していく。それは見えない。あちらから轟音が聞こえる。おそらく岩が岸壁から落とされているような、そんな音が。汗と血で何も見えない。近くから「夏侯将軍!」と声をかけられても、方角程度しか分からない。喉のあたりから水音とヒョウヒョウと風鳴りがしている。心なしか体も重いし、愛用の大剣もどこかへやってしまった。耳鳴りがして、死んだ細胞を思う。耳の奥で、ずっと奥で死んでいく細胞の悲鳴に雑じって、姜維の声が聞こえた。最後の最後まで夢を見て自由に生きてきたことを許された気がして、振り返ると、そこには真っ赤な顔があって、見覚えはなかったが酷く安心した。ただ姜維ではなかった。向き直って、護衛の指示を聞いて川へ入る。
 もしやあれは▲▲ではないだろうか。俺を迎えにきた。ああ、ごめんなさい。家路はどこだったか。ああ、▲▲………。
 ぬかるみに足をとられて、たどたどしく進軍する。騒音の中、川の水だけが厳かに響く。ほぼ渡り終え、対岸の浅瀬にいることを告げられて、少しだけ息をついたが、すぐに目の前の林から甲冑の音がしてその息を飲み込む。「夏侯将軍、鍾会です」と耳元で報告を受け、ここにきてようやく声が出ないことを知った。ひょうひょうと風が出てくる。兜を脱ぎ捨て、鎧を纏ったままの指で目をさする。なにも見えなかった。

「夏侯覇殿ではありませんか、お懐かしいですね。どうですか夢の国は。居心地がよいですか。おやおや、虫の息じゃないですか。よくここまでたどり着きましたね、姜維殿にも報告しておいてあげますよ。あと素敵なことを伝えておきますね。蜀将のほとんどは此度の戦いで戦死しましたよ、あんたと姜維殿が最後だ。さっさと」

 ひゅう、と弓のうなる音がした。目が見えないだけあって耳はよく利く。轟音となか、水音止まぬ中、その音だけが鮮明に聞こえて、狂ったように北伐を唱える姜維が思い出された。結局、自分は彼の何にも成らず、彼に触れさえもしなかったことが悔やまれる。
 姜維の絶叫を最後に水の中へ落ちた。



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